沢山の騎士達を従えて、僕を挑発的な目で見ていた君を覚えている。君はとても強欲で無慈悲で、それでももっと大きく、もっともっと高い場所から僕達を見下ろそうとしていた。その野心が僕にはとても羨ましい物に思えたんだ。無いものずくしの君は、ただ前だけを見れただろうから |
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お前の手、大きいな。言って、羨ましそうに、けれど必ず自分も得るものと確信している顔で、若い騎士の手を覗き込んでいる姿を覚えている。季節は晩夏で、戦いも一段落する頃。野営の窪地に、季節外れの蝶が一匹ひらひら飛んでいた。そんなどうでもいい事まで覚えている |
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こっちは面白くない、別の場所に行く。言って背を向けた君を覚えている。僕だって君の相手をしている暇なんてないよ、こっちはこっちで大変なんだ、恩着せがましいこと言わないで。言いたかったけれど、僕が気になったのは、柔らかい風に揺れた君の髪の毛が、すっと空気に溶け込む様子だけだった |
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僕はずっと。ずっとずっと、僕だけの物が欲しかった。国のためではなく、民のためでもなく。ただ、僕だけの物 |
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僕の不完全さは君を苛立たせ、その細い眉をきゅっと上げる顔は見飽きるほど見たけれど。欲しい欲しいと思いながら、真っ直ぐ君を見る事が出来ないでいた僕は無いもの強請りだったよね。僕が欲しかったのは、蝶でもなくて、柔らかい風でもなかった |
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僕の手は大きくなった。その大きな手で、けれど掴めない物は沢山ある事を知っている。経験として、知っている。僕が欲しがった物は大抵掴めなくて、今も掴めないままだけど。お前のペンだこは変な場所にある、言って笑うギル君が僕の中指を引っ張るから、うん。もうちょっと頑張れる気がするんだ |