『爪先が冷えたから暖めてくれないか』
爪先が冷えたから暖めてくれないか。彼はそう言って、かさかさで老人のような手を差し出してくる。青白いそれは彼の苦悩と果てしない労働を物語っているようで、イヴァンはどうしていいかわからない。わかってはいるけれど、それが正しい事かどうかはずっとずっとわからないままだ

「君はもう、凍えなくていいんだよ」そっと口から零れる小さな言葉は、彼に届くだろうか。君はもう、ずっともっと遠い遠い、暖かい場所に行けるんだ。そんな思いで告げる言葉は、ついぞ届く事はないと本当は知っている。彼はまだ疲れた顔で、口を開いて言うだろう。寒いんだ、祖国

そのときふっと耳に触れるぬくもりは、先ほどまでしていた手袋を取った掌だろう。イヴァンの冷えた両方の耳を柔らかく塞いで、マフラーに鼻先を擦り付ける。ギルベルトは困ったイヴァンにひどく優しい。イヴァンの耳を閉じたまま、ギルベルトは何時も何かを囁く。すると皆、少し安心した顔で消えていた

爪先が冷たいと言った彼もまた、疲れた中に安堵を浮かべ消えていく。何時も何時も、みんなが最後はそんな表情で。ギルベルトは魔法が使えるのではないかと、ありもしない妄想に駆られるほど見事で。それなのに耳から手を話した彼は、いつもの顔で寒そうにポケットに手を突っ込んでくる

イヴァンのコートのポケットに右手を、左手を自分のコートのポケットに。冷えた寒ぃ、言って顔を顰めるギルベルトは本当にいつも通りで、目の前で魔法を使ったとは思えないけれど。「ねえギル君、何時も彼らに何を言っているの」堪らず聞けば、酷く面倒くさそうな顔をして、けれどギルベルトは笑った

『今も寒い、凍えそうだ。昔と変わらず悪い事の方が目に付いて、どうしようもない時もある。けどな、俺はこいつと共にいて、幸せだぜ』なあ、お前はちゃんと愛されているんだ。そんな事を言われたら、泣くしかないじゃないか

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